メディアの取材を受ける際によく訊かれるのは、ルームシェアはいつ頃から日本で普及してきたのか、というものです。僕が知っている範囲でまとめてみましょう。

1990年代

僕が日本でのルームシェアを始めたのは1996年のことです。当時は、Windows95が出て、インターネットが大学や企業以外の人に使われだした頃です。その頃は、ウェブ上にルームシェアに関する記事は一切ありませんでした。また、インターネット以前の日本のパソコン通信でも、ルームシェアに特化した場所があったとは聞いたことがありません(パソコン通信は業者ごとに閉じた世界のため、仮にあったとしても見つけるのは難しかったと思いますが)

自分でルームシェアを始めてから、自分のルームシェア体験談を日本語で少しずつウェブページとして公開しはじめました。また、体験談の読者との交流や情報交換、ルームメイト募集を目的にディスカッションフォーラムを立ち上げています。

2000年前後には、このような体験談や募集サイトが10個弱、存在していました。まだ、「ルームシェア」という用語も、シェアのことを指す用語として確定はしていませんでした。英語ではroomshareとはそれほど言いませんし、僕は「フラットシェア」という言葉のほうを好んで使っていました。

2000年の時のフラットシェアリング in Tokyoトップページ

2000年の時のフラットシェアリング in Tokyoトップページ

僕が最初にウェブサイトにつけたサイト名は「フラットシェアリング in Tokyo」でした。ルームシェアだと一部屋に何人も住んでいるような解釈も出来てしまうので、日本の家族向けマンションでやるシェアに一番合いそうな単語として、イギリス英語のflatshareを選んだものです。

僕としては、英語の「~している(生活)」という意味でingをつけたのですが、人によっては語感がいいのか、シェア生活のことを「シェア」じゃなく「シェアリング」と言い出す人がでてきます。今ルームシェアやシェアのことを「シェアリング」と呼んでいる人もいるのはここからでしょう。

当時のルームシェアは、ほとんどが東京近辺で、しかも在日の外国人によって行われていました。英語では「クラシファイド」といわれる募集広告が載っているのも、日本にある英語のウェブ掲示板かフリーペーパーで、広告や交渉もすべてが英語ベースで行われていました。

この頃にルームシェアをしていた日本人は、ほとんどが海外留学からの帰国経験者で、海外で知ったルームシェアの楽しさを続けたり、海外で身につけた語学力の維持を目的として外国人とシェアをする、というケースがほとんどでした。

2002年頃

ルームシェア入門を基にして、日本ではじめてのルームシェア解説書「ルームシェアする生活」を執筆したのがこの年です。この頃、サイトのフォーラムでルームシェアに関する質問が増えてきていたこともあり、ルームシェアとは何で、どうやったらうまくできるのか、という情報が求められている、というのが当時の出版社サイドの企画意図でした。

ルームシェアする生活―チープな家賃で仲間と愉快に暮らす (サラ・ブックス)
ルームシェアする生活―チープな家賃で仲間と愉快に暮らす (サラ・ブックス)

「ルームシェアする生活」は、残念ながらルームシェアの大きなブームを引き起こすことはできませんでした。「ルームシェア」という言葉が何を指すのかも知らない人が多い中、増刷されることもなく現在は絶版状態となっています。(チャンスがあれば今もう一度書きたいと思いますので出版社の方はぜひ御連絡ください)

まだ、「ルームシェア」というものが何か伝わらなかったこともあり、書店でも住宅関連の棚に置かれるか、ライフスタイルの棚に置かれるか、あるいは若者向けコーナーに置かれるか、と売り方も難しかったと言うのが著者としての感想です。

2004年頃

2004年頃のルームシェアジャパン(ルームメイトジャパン)

2004年頃のルームシェアジャパン(ルームメイトジャパン)

この年に、ルームシェアジャパン(当時はルームメイトジャパン)の募集数や閲覧数は1.5倍ほどの伸びを示します。きっかけはNHKのドラマ「ルームシェアの女」でした。NHKの視聴者には高齢者や地方の人も多いことから、「ルームシェア」という用語とその意味が一気に広まり、このあと、人に「ルームシェアしてます」というのが説明なしに通じるようになったと感じます。

ルームシェアの女 DVD-BOX
ルームシェアの女 DVD-BOX

それから、それまで基本的に不動産屋の賃貸でルームシェア可能な物件を探すのは無理だったのですが、この前後からまれに「ルームシェア可」という物件やルームシェアしたい人を受け入れる不動産屋が登場してきます。

また、2000年に入ってから民放でもいくつか、ルームシェアやゲストハウス(シェアハウス)を舞台とした連続ドラマが放映されます。かって海外ドラマで見ていた「面白そうだけど自分には関係ないシェア」から、より実現性のある日本でやっているシェアのモデルが、テレビで目につくようになってきました。

もっとも、ドラマの中にはルームシェアの良い面、楽しい面を過剰に強調しすぎているものもあり、準備や情報不足のままにいいかげんにルームシェアを始めてしまい、フォーラムでのトラブル相談が増えたというのもありました。ドラマというものはそういうものだと思いますが、「ドラマみたいな生き方をしてみたい」という思いを持つ人も多いのでしょうね。

2008年

1990年代のバブル崩壊のあとずっと、とりたてて景気がいいとはいえませんでしたが、この年起こった世界的な金融不況の影響で、さらに世の中の不透明感が増し、職を失ったり給与をカットされたりという話が新聞やテレビで増えました。それまでの景気のニュースが「給料が上がらなくなる/下がる」話中心だったとすれば、この辺りから「仕事が無くなる/無くなるかもしれない」という話が多くなってきます。

その少し前からメディアでよく取り上げられていた「エコロジー」と、不況による節約/倹約のちょっとしたブームがあいまって、ルームシェアやその他のシェア「カーシェア」や「オフィスシェア」がメディアに出てくるようになります。

海外帰りや合理的な若者が、楽しみや寂しさ解消を求めてルームシェアをする、という割合よりも、不況に押されて経済的な事情でルームシェアやゲストハウスへ、というケースが目につきはじめた年でもあります。

2009年

2009年頃から、突然新しい言葉「シェアハウス」がニュースに登場してきます。それまで「ゲストハウス」と呼ばれてきた、業者が運営する台所やシャワーが共同の共同賃貸住宅はずっとあったのですが、ドラマ「ラスト・フレンズ」でこの「シェアハウス」という言葉が使われた影響か、「ゲストハウス」と「シェアハウス」の並立状況が続きます。

大きな新聞社では、過去にかならず「ゲストハウス」の記事を書いているはずなのですが、担当が代替わりしたのか、「シェアハウス」というのが突然新しく出てきたものだと誤解されたような記事も増えています。

「ルームシェア」は個人間の空き部屋貸しが中心で、少しそれらとは違うのですが、そういった用語の混乱の中で、メディア記事によっては「ルームシェア」と「シェアハウス」の混同も見られるのが現状です。

2013年~現在

業者が一人一人に個室(二段ベッドや押入れのこともありますが)を貸すシェアハウス(ゲストハウス)は、メディアの露出を受けて参入者が増え、過当競争になりつつあるようです。窓がなかったり火災などの避難対策がされていないものや、不当な労働と引き換えに住まわせたり生活保護を受け取らせてしかも横取りするような、弱い立場の人を搾取するいわゆる貧困ビジネスにあたるシェアハウスも報道が増えてきました。

個人が空き部屋を貸し借りするルームシェアは、シェアハウスの流行の影に隠れて、大きなニュースになることもなく、掲示板の募集数なども、大きく増えも減りもしないという状況です。

ルームシェアジャパンとしては、ワンルームマンションから共同生活のシェアハウスに移った人たちの中に、これまで不動産屋に払っていた金額を単に業者に払うようになっただけという人が多いのではと見ています。共同生活がどういうものかを知るのに、シェアハウス/ゲストハウスで入門してみるのは悪くないと思いますが、誰かに余分なお金を払うのではなく、貸したい人から直接借りるルームシェアという、一番無駄がないルームシェアという暮らし方を、欧米のようにもっと多くの人が認知し、試し、楽しんでもらえればいいなと考えています。